何も考えたくないから走っていた。
走っていたから何も考えていなかった。
そうして立ち止まったところはクイックにも覚えがあるところだった。
塀に丸く囲われた死の世界。その中心でひっそりと深くて暗い口を開ける彼の城の、落ちてゆけないギリギリのところ。
かつて自分は彼をこちらに引き上げて、
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何も持たない両の手のひらが寂しいのでそれぞれぎゅっと拳を作った。
「…やっぱりばかだな、おまえ」
あんなに瞬いていたのに
クイックは空を見上げる。
真っ暗だ。