なんだったっけ。
どうしてこんなことになったのだろう。
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ぐるぐると安定しない思考を続けていると、なんだか目まで回ってくるような気がした。洗濯ものになった気分だ。バランサーが作動していないようで、地面が揺れている錯覚がする。
とにかく立ち上がらなくちゃ、とまず思って、思ってから、自分がうつぶせに寝転がっていることに気付いた。体を起こそうと床に押し付けた腕は力を込めるほどピキピキと嫌な音を立てる。
体中がびっくりするくらい熱かった。熱いなんて言う感覚は初めてで、どうしたらいいのかわからなくなる。そもそもこれが熱いということなのかすらわからなかった。
「はかせぇ・・・」
どこか悪くなったら直してもらえた。鍛練は痛いし辛かったし、よくサボっては怒られたけど、今までこんな、こんなことはなかった。
熱くて苦しいのなんて初めてだ。誰かに助けを求めたいのに誰もいない。
立ち上がることができないまま這いつくばっていると、視界の端に青い爪先が映った。顔を上げると、青い爪先の持ち主の青いロボットが、眉根を寄せて見下ろしてきていた。
「・・・ごめんね。チップ、貰っていくよ」
そう言うと青いやつはしゃがみこんで手を伸ばしてきた。信じられないようなものを聞いた心地でしばらくその手が近づいてくるのを目で追う。
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「なんで謝ってんの?」
「え?」
「おまえ、何謝ってんの? ぼくのことかわいそうだとか思ったの?」
全身の熱さを一瞬忘れて、無防備だった相手の腕を掴む。一瞬身じろいだロボットは何か言おうと口を開いたが、それを許さず畳みかけるように叫んだ。
「ぼくは、ワイリーナンバーズだぞ! 博士が作ったロボットだぞ!」
掴んだ腕を放さないように力を込めて、同時に機体温度を上げていく。慣れ親しんだ熱気に少し安心した。
そうだ、自分が熱に苦しむはずがない。この全身の熱さは気のせいだ。
「おまえみたいにアマちゃんにやられるはずないだろっ!」
言葉とともにさらに温度を上げると、目の前のロボットの顔が歪んでいく。
熱いのは気のせいだ、そう思うと何も怖くなくなった。
体中が立てるピキピキとヒビが入るような音も、周りの空気が発火してしまえば聞こえない。
大丈夫。熱くなんてない。
灰になれない腕が二本
ロックマンは掴まれた腕のあまりの熱さに顔を歪めながら右腕を、撃破した敵から奪ったバブルリードを、ヒートマンに向けて突き付けた。
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ヒートマンは過ぎた痛みは熱さに誤認しうるということを知らなかった。
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