暗い。 暗いのは明かりがないからだ。 明かりがないのは窓がないからだ。 窓がないのは ないのは 考えてわからなかったのでメタルマンは考えるのを止めた。 考えるのはやめたが歩く足は止めない。とても暗いが暗視カメラでなんとかなるレベルだったのでそうして、見落としの無いようにあちらこちらに目を移す。 ずうっと歩いてきた固い感触の廊下は崩れたがれきで通れなくなっていたので、一度引き返して、途中見落としの無いように見ていたおかげで見つかった下りの階段を下ることにした。これ以上暗くなるまいと思っていたがそんなことはなかった。14段くらい下った先は先程より一層暗い。 暗いのは明かりがないからだ。 しかし今は昼である。そして晴れている。 それなのにこんなに真っ暗なのはここに窓がないからだ。 窓がないのは外から中が見えないようにだろうか。確かにさっきからいくつも見える小部屋は本当に小さくて裕福な暮らしとは程遠くて人に見せられたものではない感じだ。 メタルマンは階段を下った先にもあった廊下を、上の階にいたときと同じように周囲にくまなく気を配りながらゆっくり歩く。時々小部屋にも足を踏み入れて何かないか探す。小部屋の中には大抵一つはベッドがあった。大抵それ以外には何もなかった。 これだけ探して何もないのはもしかしたら弟の調査ミスかもしれない。メタルマンは弟のことを愛しているし信頼もしているし愛していたがその力を過信したことはなかった。 メタルマン達の生みの親であるワイリーは人間である。人間であるので完璧ではない。だから作られるメタルマンにもその弟たちにも完璧はありえない。メタルマンはそのあたりをよくわかっていた。 歩くとコツコツとジャリジャリの間くらいの音がする。 何部屋目かに覗いた小さな部屋でメタルマンはおやと思った。一つあるベッドの下に何かある。 コツジャリとベッドに近づいた。半分ほど垂れ下ったぼろぼろなシーツを片手でめくり上げてベッドの下を覗き込む。 粗末な布をまとっていた。干からびて干からびて匂いすらしない。 メタルマンは暗視カメラを赤外線カメラに切り替えて、さらに生体反応のスキャンをして、何事もなかったので暗視カメラに戻した。 胸の前でぎゅっと縮こまった五本の指の間に何かないだろうかと思ってみたが、触れるとぼろぼろと崩れ落ちた五本はその中に何も隠していなかった。 窓がないのは中から外が見えないようにだ。 中から外が見えないようにするのは中にいる人間が外に憧れたりしないようにだ。 外に憧れるはずの人間が暗くて狭い部屋のさらに暗くて狭いベッドの下にいるのは、何か怖いものが中にあったからだろうか。 暗いのは窓がなくて電気が切れているからだが、そういえばメタルマンはどうしてこの施設ががれきだらけなのかも、どうして切れた電気を直す者がいないのかも知らなかった。 まあ、今回の目的とは関係ないことなのでどうだっていい、と言えばどうだっていい。この施設の窓のない壁は電波を通さないので、目的を果たすか、廊下の奥に見えた両開きの扉の奥を調べて何もなかったら一度帰ろう。そのとき暇がありそうだったらこのベッドが一つしかない小部屋しかない施設に何があったのか聞こう。 残念なことに扉まで4つほどあった小部屋にはやはりベッド以外の何もなかった。 廊下の奥に見えていた両開きの扉の前までたどり着いたメタルマンはよいしょと扉を押す。 ガシャン、と存外大きな音がした。音がしたけど開かない。 「・・・・・・・・・」 メタルマンは少し沈黙して、いや、元から黙っていたがとにかく沈黙して、今度は何事もなかったかのように扉を引いた。扉は何事もなかったかのように開いた。 暗視カメラが今視界に入っているものの輪郭を映し出す。 扉の奥は廊下でもなく小部屋でもなく、比較的大きな部屋だった。 大きな部屋にはベッドではなく階段がある。それも今度は上り階段だ。 メタルマンは階段に上りこそしなかったが何気なく段の数を数えてみた。 13段あった。 (無 への 魔法) |
筆者注:実際の死刑場とは何もかもが著しく違いますので誤解しないように気をつけてください。