選ばれているようだ。 と、バブルは思う。海なり湖なり、水の中に漂っている時の感覚である。 今 今である。今と言うのは、潮の流れるままにゆぅらりとしながら海抜-400mから空を見上げる、今である。海なう、ってなところ。 博愛主義じゃないんじゃない? 「というわけで、今ここでのんびりと世間話ができる僕たちは、選ばれたってことになるわけだ」 正しく世間話の無駄話を、バブルはこう締めくくった。超超高感度カメラでも、目の前の人魚の姿がかすんで見える、そんな状態でする話ではない。彼女もそう思ったのか、ふーんと気のない返事を返すのみ、 「あなた、面白い発想するのね」 と思いきや、意外にも好感触。この考えを誰かに言うのは初めてなので、貴重な第三者の意見その1ということになる。 「でもそれで選ばれた、だなんて言いきっちゃうあたり、さすがドクターワイリー製って感じ」 口では負ける(というか口以外でも多分負ける)と自覚しているのでぽつりと小さな反抗だったが、スプラッシュウーマンはにこにこ笑って「ありがとう」とまで言った。ここにレフェリーがいたら高々と彼女の腕をとって挙げていただろう。 「面白い考えっていうのは本当よ? こんなところまで一緒に来れる人、あなたくらいしかいないから、新鮮だわ」 こんな海洋学的価値がないところで救難信号出すような輩=人間はいない。 とは思ったけれど、これは言わぬが花である。ワイリー製だろうがライトナンバーだろうが、サボりたくなるのが人の常。これも彼らにうっかり人の心もどきを持たせた二人の博士の責任である。多分。 ここで漂い始めてから20分は経ったろうか。サボるのも30分が限界だろう。というわけで、後10分間はここでのんびりできる計算だ。スプラッシュウーマンも異論はないようなので、またも二人してゆらゆらし始める。こんなところ見つかれば給料がしょっ引かれること間違いなしであるが、バブルマンはともかくスプラッシュウーマンは信用があるので、そもそも見回りも来ないだろう。優等生はこういうとき便利だ。 で、5分。 5分後であり、あと5分でもある。そろそろ行こうかな、どっこいしょ。と腰を上げる時間だが、そもそも下ろしてない腰を上げる必要がない二人はのんびりしたものである。ただ会話もなく、無言。何が楽しいかと言われると、よくわからない。海に選ばれると海が好きになるのだろうか。 「あなたの話を聞いて思ったの」 隔てられた空を見上げながら彼女が言う。バブルは問い返さなかったが、それを催促ととったのかこちらの反応なんぞどうでもいいのか、続ける。 「海に選ばれると、空も陸も嫌いになっちゃうのかしら、って」 新しい見方だ。確かに空嫌いの海に好かれると、自分も空が嫌いになる気がする。 「だって、私、帰りたくないもの」 シンプル・イズ・ザ・ベスト。バブルの皮肉を吹き飛ばした。 君の場合嫌いなのは陸だけだと思うけどね、とか、僕は空が嫌いっていうより海が好きなんだけどなあとか、そういうのはなしなし。ナンセンス。 そうだねえ 「僕もまだ帰りたくないかな」 |
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光
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