仕事が終わらない。
基地でやると部下が休め休めとうるさいので持って帰っては来たものの、抱えた紙媒体の資料の多さにうんざりとする。今時紙媒体だなんて非効率的以外のなんでもない。データ化するこっちの身にもなれってんだ。
文句を言いながらも自室に到着する。ドアの前に立つと、センサーがフラッシュを感知するための一瞬の沈黙のあと、部屋の主を迎え入れるようにドアが開いた。
「遅かったですね」
何かいる。
ドアが開くと同時にアイカメラが捉えてしまったベッドの上の緑色をひとまず置いておいて、両手で抱えていた資料をデスクの上に下ろす。嫌な音をたてる肩のジョイントをほぐしながらベッドに目をやると、やっぱり気のせいでも何でもなく、スネークが当然のように寝転がっていた。
「…ここが誰の部屋か言わなきゃわかんねえか」
「ご親切にどーも。お邪魔してます、先輩」
ひらひらと手を振られても腹がたつだけだ。一発蹴りを入れたいのを堪えてデスクに向かう。蛇の気まぐれに付き合っている暇はない。
「帰ってきても仕事か。寝なくていいんですか」
「どっかの誰かさんと違って他人の部屋でくつろいでるヒマはないんでな。追い出されたくなけりゃあ黙ってろ」
「怖いっすねえ。それじゃあ部下の気持ちを無視して休みもせず仕事をする誰かさんを怒らせないように黙ってますよ」
「…なんで知ってる」
「秘密です。どうしてもってんなら教えてあげますけど」
ちらりとベッドを横目で見るが、人の気に障る笑みを浮かべているスネークと目が合いそうだったのですぐにやめた。
「別に知らなくていい。どうせろくなことじゃねえだろ」
「はっはは! ひどい言いようっすね。こんなかっこよくて頼りになる後輩もなかなかいませんよ」
「へえ? そんなやつがいるなら是非お目にかかりたいもんだ」
どうせまた部下から直接聞いたんだろう。なぜだかさっぱりわからないがスネークはやけにフラッシュの部下と仲が良い。
いつまで経ってもまったく減らない紙束に書かれた内容を黙々とコンピュータに写していると、ベッドから起き上がったスネークが、モニタを後ろから覗き込んできた。
「ね、先輩。寝ましょうよ」
「自分の部屋で寝る分には止めねえからとっとと帰れ」
「別に俺は眠くないですから」
「俺も別に眠くない」
そう言うと背後でため息をつかれたが、つきたいのはこっちだ。
「先輩」
再度呼ばれるが、今度の声には何か不穏なものを感じとり、椅子ごとスネークに向き直る。
しかしこの判断が間違いだとすぐに知れた。フラッシュが振り返った途端、待ってましたとばかりに一気に上体を寄せられる。急に近くなった距離に慌てて体を引くが、椅子の背もたれと、さらに後ろのデスクのせいで十分な距離がとれない。
そうこうしている内にデスクに右手を、左手をフラッシュの右肩に乗せたスネークが、フラッシュの聴覚回路のすぐそばで囁いた。
「寝れないなら寝かせてあげましょうか」
その言葉を聞いた瞬間なんだかどうでもよくなった。
普段からどちらかというと自分を厳しく律してきたが、たまにはこんな日があってもいいだろう。体を引くのを止めて肩の力を抜くと、それがわかったのかスネークは相変わらず人の気に障る笑みを浮かべてそっと首筋へ顔を寄せる。
それとほとんど同時に、フラッシュは自分の欲求に全力で従って、右の掌をスネークの胸部の装甲が途切れるところに叩き込んだ。
「いっ!」
たまらず二、三歩後退したスネークは、胸部の装甲の途切れるところ、要は人間でいうみぞおちを押さえながら椅子の上のフラッシュを睨み上げた。
どことなくすっきりした気持ちでそれを見下ろす。
「あんたねえ、ムードってもんを大事にしねえともてないですよ」
「余計なお世話だ」