フラッシュと別れてから八分後。
手応えのあるやつに出会わぬまま、目的を達したクイックは建物の出口まで戻ってきていた。静まり返った周囲の様子に加速装置を切る。主観時間が通常どおりになると、いきなり雨の落ちる速度が速くなったように感じた。
突入前よりも明らかに激しくなった雨足に辟易しつつ建物の外に出ると、フラッシュが別れたのとほとんど変わらぬ場所に立っていた。ちょうどこちらに背を向けているその足下には、多くの残骸が散らばっている。その中に活動を停止したと見てわかる人間だったものが混じっていて、クイックは眉をひそめた。
世間にはよく誤解されるが、ナンバーズが人間を殺すことは滅多にない。むしろ極力生かすようにと言われている。
国家が国家であるにはそこで住む国民が必要であるように、世界征服をした後にもそこに住み労働をする人間が必要だからだと博士が言っていた。
クイックもあえて殺そうとしたことはない。大抵の人間は少し脅せば逃げていくし、向かってこられても命を落とさない程度に痛めつけてやれば抵抗しなくなる。特にフラッシュはその辺りの力加減が上手くて、人間を傷つけること自体そうそうなかった。
だから人間が死んでいるなんていうこの状態はおかしい。メタルが言っていたのはこの事かと思いつつ、クイックはひとまず雨の中佇むフラッシュに声をかけた。
「フラッシュ」
どうせいつもの無愛想な顔をしているのだろう。そうしたらクイックは、らしからぬフラッシュの失敗を笑ってやればいい。
だけど違った。
ゆっくりと振り返ったフラッシュは、今まで見たことがないほど楽しそうな笑みを浮かべていた。
俺はこんなやつを知らない。
フラッシュマンは、俺の弟は、返り血を浴びてあんなふうに笑ったりなどしない。
これは誰だ
ざあざあざあと
雨は降りやまず、世界は重みを増していく。