今日は良く晴れた。
最近溜まりぎみだった洗濯物をいっぺんにやっつけて、はためくシーツの群れを見ながら達成感を味わっていると、背後から誰かの近づいてくる足音がした。落ち着いた足取りだ。
メタルかフラッシュだろうか。見当をつけながら振り返ると、まず青色が目に入った。
「撮るぜ」
何をだ、と言うよりフラッシュがシャッターをきる方が早かった。ファインダーから目を離して今しがた撮った写真を確認する弟の姿にため息をつく。
「人の写真を撮るときは許可をとれと言っているだろう」
「とったじゃねえか、一応」
「あれはとったうちに入らん」
「まあまあまあ、おかげでいい写真撮れたから」
見るか、と言われて向けられた画面の中には、洗濯物をバックにちょうど振り向いたところの自分がいる。
太陽を受けて白く輝くシーツと、雲一つ無い空との対比は確かにいいものであったが、そこに自分がいるとなるといいとも悪いとも言えない。ひとまず許可はとるようにしっかり言っておく。
「今度から気をつけるって。それより、なんか手伝うことないか?」
「いや、特にないな。暇なのか」
「まあな。あーどうすっかな」
相変わらず働いていないと落ち着かない性分らしい。
所在無さげにカメラを弄っていたフラッシュは、一度空へとカメラを向けたが、結局何も撮らずに手を下ろした。つられてなんとなく空を見上げたエアーの視界にも、昨夜の大雨が嘘のように澄み渡った青が映る。
「暇なのか」
「暇なんだ」
「なら、やっぱり付き合ってくれるか」
「いいけど、どこへ?」
ぴっと指差す。それを追ってフラッシュは上を見た。
*
「いい眺めだな!」
昨夜の雨のおかげか、いつもより清々しく感じる風を受けながら、フラッシュが歓声をあげた。風が強く、雲もほとんど無いため確かに見通しはいいのだが、そんなに縁に立たれるとハラハラする。
「落ちるなよ」
「大丈夫だ」
地上を覗き込みながら言われてもちっとも安心できない。
言っても聞きそうにないので、フラッシュに気づかれないように部下達に指示を出す。流石に落ちることはないと思うが、もしかしてもしかするかもしれない。念のためだ。
「これ今どこを飛んでるんだ」
「海の上だな。どうせ誰もいないだろうし、少し高度を落とすか」
「頼む」
カメラを構えながらフラッシュが頷くと、足場が緩やかに降下し始める。一層の薄い雲をすり抜けると、視覚異常かと思うほどの一面の青が広がった。風の音に紛れて、小さく感嘆の声がする。
「青いな」
「そうだな」
少し相づちが適当すぎたかと思ったが、無心でファインダーを覗くフラッシュは意にも介さないようだ。そもそも返事を期待していなかったのだろう。
一通り撮り終わったのか、カメラを下げたフラッシュはそのまま無言で水平線を眺めている。その様子をなんとはなしに見つめていると、不意にフラッシュがこちらを向いた。
「ありがとな」
「何がだ」
「暇じゃなくなった」
「…そうか」
何と言えばいいのかわからず、またつまらない返事をしてしまったが、それでもフラッシュは嬉しそうにしていた。メタルが後続機のことを弟扱いしだしたのも、今の自分なら理解できる。
「エアー」
「どうした」
「写真、撮っていいか」
写真なら先程からずっと撮っているじゃないか、なんて野暮なことをさすがに聞きはしない。許可を待っているのか、フラッシュはすでに準備万端でレンズ越しにこちらの様子を窺ってくる。
今度から気をつけるというのは嘘ではなかったようだ。いつもこうならば自分も口煩くする必要はないのに。
「好きにしろ」
言い終わると同時に、フラッシュが世界を切り取る音を聞いた。