「はっ、よく言うぜ速さ以外取り柄の無いバカが!」
「部屋にひきこもってまともに戦えねえやつにだけは言われたくねえ!!」
「てめえみたいに人の指示聞かないやつの尻拭いで忙しい、からなっ!」
「んだよそれっ! 俺のせいだって言いたいのか!」
「おっと、おバカなクイックちゃんには、今の嫌味は高尚すぎたかあ?」

ムカつく。
腹がたつうるさいうるさいうるさい!
ギリギリと合わせた手に苛立ちをぶつけるかのように力を込めるが、正面にいるハゲも同様にこちらの手を押し返してくるため均衡が崩せない。目の前にある顔を睨んでも、フラッシュは嫌味ったらしい笑みのままだ。

「うっせえだまれウスノロ!」
「先に喧嘩を売ってきたのはてめえのほうだろ! そっちが黙れ!!」
「俺が、いつ、ケンカを売ったんだよ!?」
「おいおい、それぐらい、いくらバカでも思い出せるだろうっ」

こいつはいつもこうだ。先にキレだすのはハゲの方なのに、俺が悪いのだと言ってはばからない。

ギリギリギリ
力を掛けすぎて腕や肩が熱を持っているのがわかる。それだけやっても平行線を辿る力比べに苛立ちが増す。
とにかくこいつを黙らせてやりたい。

「どーしたオニイサマ、引きこもりに力で勝てないんじゃあ訳ねえなあ!」

うるさい

全力でかけていた力を急に抜いてやると、想像通り支えを失ったフラッシュはこちらへ倒れ込んできた。慌てて足で踏ん張り体を引き戻そうとするのを、掴んだ両手を引っ張ることで阻止する。
両腕をしっかりと確保されたフラッシュが何か言う前に、素早く口を塞いだ。

「…っ!」

一瞬体を硬直させたフラッシュだったが、すぐに我に帰って体を離そうとする。それを逃すまいと、両手にしっかり力を込めて引き寄せた。

「…っは! て、めえ、ざけんなっ」
「うるさい」

口がはなれた瞬間飛び出た罵声に眉をしかめて、今度は逃げられないようさっきより深く口づける。それでもしばらくは掴まれた腕を振りほどこうとしたり、人のことを蹴り上げようとしていたが、次第にその抵抗も弱くなった。

「はな、せ…」

言われなくても。
内心だけで言い返して、掴んでいた右手を放してやる。フラッシュはすぐにその空いた片手で俺のことを押し返してきたが、思った通り大した抵抗にはならなかった。
そのことに満足して、俺は今までフラッシュの手を拘束していた右手で今度は後頭部をしっかり抑えた。が、2秒ほどですぐに離す。排気がうまく行えないからか、普段は低めの機体温度が今は驚くほど熱い。

これは少しまずいかもしれない。あまり高熱が過ぎると回路がショートを起こし、動作不良を招くことがある、とフラッシュから散々言われた台詞を思い出した。どこまでがセーフでどこまでがアウトなのかいまだによくわからないのだが、フラッシュがこれほどの熱を持つことは今までになかった。

排熱が完了するまで、そう思って一度フラッシュを解放する。

「っはあ、はあ、はあ…」

てっきりまた何か言ってくるかと思ったのだが、排気を繰り返すばかりで言葉が出てくる気配はない。
代わりとばかりにこちらを気丈に睨んでくるが、その緑色の瞳に若干の怯えが含まれているのを見つけた瞬間、電脳に覚えの無い信号が走るのを感じた。
戦闘時に気分が高揚するのに似ている。しかし、何も考えなくても体が勝手に動くのは戦闘中よくあることだが、今もう一度フラッシュを引き寄せキスをしたいと願うのとは、何か違う気がした。
回路の奥に痺れたような感覚を残したまま、排熱が終わるまで待とうと思っていたことすら忘れて、クイックはフラッシュの頭を持つ右手に力を込めた。




瞬間、世界が反転した。
地面にうつ伏せに引き倒されたのだと気づいてすぐに体を起こそうとするが、それより早く頭を床に押しつけられる。

「とうとう見境なしか。随分と飢えてるみてえだなあ、クイックさんよお?」

カチリ、とフラッシュがうなじのコードを引き出す際の音に嫌な予感がして逃げだそうと身をよじるが、可動域をうまく抑えられていて身動きがとれない。首を捻ることもできないので、自分の上でフラッシュが何をやっているのかよくわからないが、少なくとも自分のうなじのソケットにコードを接続されたことはわかった。

「プレゼントだ。いい夢見せてやるよ」
「ちょっと待てフラッシュっ!!」

当然待ってくれるはずもなかった。