「バブルってさあ、なんか好きなもんねえのか」
「…好きなものがないみたいな前提で聞かないでよ」
文句をつけると、フラッシュがカタログを捲る手を止めてこちらを見た。
え、あるんだ、と今にも言い出しそうな顔をしていたので、わざとらしく機嫌を損ねたように視線を外してやる。多分フラッシュは読んでいたカタログを閉じ、うつ伏せからきちんと座り直して一言謝ってくれるだろう。
「や、悪かった。あるよな、好きなものくらい」
「あるよ」
「で、何が好きなんだ」
「温泉」
素っ気なく答えると沈黙が返ってきた。
言いたいことは何となくわかっていたが、あえて無視して手に持ったE缶の残りを少しずつ減らしていく。
「…聞き方が悪かったな。そうじゃなくて、物だ、物」
「温泉じゃだめなの」
「ダメじゃねえけど、あんまよくないな。まあ、ないならないでいいんだけど」
「フラッシュって僕のことなんだと思ってるわけ? あるよ、温泉以外にも好きなもの」
「じゃあそれを教えてくれ」
「別に、教えてあげてもいいけど…」
言いつつ外していた視線をソファーの上のフラッシュに戻す。フラッシュは、さっき予想した通り、うつ伏せからきちんと座り直していた。
「なんで知りたいの」
「いや、なんとなく」
ふーん、と小さく呟くと、フラッシュの体が僅かに揺れた。そういえば、バブルがふーんと言うのは何か企んでいるときだと指摘されたことがある。からかっているのがバレてへそを曲げられても困るので、素直に答えることにした。なんでフラッシュがカタログなんか読んでいるのかも、深く聞いてはいけないのだ。
「フラッシュのつくるご飯」
「…へ?」
「今の季節だとサンマかな。あとタケノコご飯なんかもおいしいよね」
「い、いやいやいやちょっと待て」
「何。ちゃんと好きなものでしょ」
「そこは別にいいけど、なんでよりにもよって俺がつくったやつなんだ。どう考えてもメタルの方がうまいぞ」
「うまいうまくないじゃなく、僕はフラッシュの料理が好きなの」
「…そんなもんか?」
「そんなもん」
そんなもんか、と再度繰り返したフラッシュはしばらく何か呟いていたが、すぐに顔を上げて立ち上がった。
「わかった。覚えとくよ」
「うん。あと卵焼きは甘くない方がいいな」
「…覚えとく」
最後にそう言ってフラッシュはリビングを出ていった。
自分で儲けたお金ぐらい自分のために使えばいいのに。そう思いつつ手の中の缶をあおる。
明日の夕食はきっと、タケノコご飯とサンマと甘くない卵焼きだ。