おれには弟が三機いる。正しくは、おれより後に造られたナンバーズが三機いる、なのだが、メタルが言うナンバーズ同士を兄弟だとする考え方が気に入っているので、おれは彼らを弟と思っている。
兄弟の中で一番仲がいいのは、一つ下の弟であるフラッシュだ。
フラッシュは製作に一番時間がかかっただけあって、非常に優秀なロボットだ。破壊活動を得意とするおれと違って、作戦指揮や情報戦において最大の力を発揮するいわゆるコマンダータイプであるらしい。
そのせいかなんなのかフラッシュは弟のくせにしっかりしていて、口は悪いがいいやつだ。おれが持ち前の不器用さを発揮していると、ぶつくさ文句を言いながらも手伝いに来てくれる。二つ下のヒートにはどちらが兄かわかったもんじゃないと笑われたが、おれもよくそう思う。

「じゃんけんほい」

言われてグーを出す。
今日は馴染んだドリルアームをハンドアームに付け替えて、うまく扱えるよう訓練中だ。リビングの4人掛けソファーのど真ん中を陣取ったフラッシュは足を組んでめんどくさそうにしながらも付き合ってくれる。いいやつだ。

「あいこでしょ」
「あいこでしょ」
「…あいこでしょ」
「…あーいこーでしょ」
「………クラッシュ、お前なあ」

無言のおれの代わりに掛け声をしてくれていたフラッシュは、目元を覆いながらため息をついた。自分はまた何かおかしいことをしただろうか。首をかしげて続きを促す。

「グーばっかり出してても練習になんねえだろうが。パーとかチョキとか織りまぜろよ」
「難しい」
「だから練習してんだよ。せめてパーぐらいは使え」

簡単に言うが、五つもある指を同時に、なおかつバラバラに動かすなんて訳のわからないことができるはずがない。
グーにしたって、力を込めすぎて指がもげるなんてことがないよう気を遣っているので、フラッシュがいうほど簡単なものではないのだ。

「グーが難しい」
「そうは言ってもなあ、ずっとグーばっかやってても意味ないだろう。一回パーやってみろ」

パー。ということは全てのモーターを今とは逆向きに動かさないといけない。五本の指を同時にするとわけがわからなくなりそうなので、親指から順に開いていく。
全て終わるまで40秒くらいかかったが、なんとか終わらせて顔を上げる。フラッシュはいつのまにか足を組むのを止めて、両膝に肘を置いて前のめりぎみにおれの手元を見ていた。

「伸ばしすぎて反り返ってる。これぐらいだ」

こう、と右手を開いて見せてくれる。確かに比べてみるとおれの手は随分と力が入っていて不自然だ。
突き出された黄色い手のひらと自分の右手を見比べながら、同じくらいになるように調節していく。これくらいだろうかと悩んでいると、おれの手を無言で眺めていたフラッシュが待ったをかけた。

「よし。それがパーだ。わかったな」
「…難しい」
「わかったな?」

どちらかというとわからないと言いたかったが、そうすると怒られる気がしたので黙って頷いておく。

「じゃあもう一度グーだ。今度は五本とも同時に」
「同時」
「同時だ。ゆっくりでいいからやるだけやっとけ」

言われた通り五本の指を同時に曲げていく。中程で親指がぶつかってしまったので、少し開いてからやり直す。親指を少し遅らせると上手くできた。

その後もフラッシュに言われるままグーパーグーパー繰り返していると、リビングの扉が開く音がした。おれもフラッシュも顔を上げて誰が来たのか確認する。
大きくて青い独特の形状の機体が目についた。エアーだ。

「取り込み中悪いな。フラッシュ、今時間あるか」
「ああ、まあ一応な。急ぎか?」
「わからん。博士に呼んできてくれと言われたんだ」
「そうか。わざわざ悪いな」

エアーに礼を言ったフラッシュはそのまま立ち上がると、ちょうど右手をパーからグーに変えている途中のおれを見下ろした。

「できるだけ早く済ませるから、それまで練習しとけよ」
「了解した」
「目標は最低でも一秒だ。じゃあ後で」

一秒は無理だ。
そう思ったが、おれが反論するよりフラッシュが部屋を出る方が早かった。
パタンと音をたてて閉まった扉を少しの間眺めていたが、建設的じゃないと気づいてすぐに練習を開始する。

広いリビングで一機だけグーパーしているおれをかわいそうに思ったのかはわからないが、扉の近くに立っていたエアーはこちらに来てさっきまでフラッシュがいたソファーに腰を下ろした。

「ずいぶんと上手くなっているじゃないか」
「練習した」
「うむ。フラッシュは教えるのがうまいからな」

エアーは鍛練が好きだ。だから鍛練をすると誉めてくれる。
逆に何でも楽をしたがるヒートはよくお説教を食らっている。じゃあいつでものんびりしているバブルも怒られるのかと思いきや、そういうわけでもないらしい。
何でだろうと思いながら、無意識にグーパーしていることに気づく。じっくり考えなくてもできるようになってきたみたいだ。案外一秒も無理じゃないかもしれない。

「クラッシュ」
「なんだ」
「力が入りすぎだ。反り返っているぞ」
「……」

おれは無言でモーターを調整して正しいパーの形に直した。