「何だ、用事って」

案の定ラボにいたメタルに、背後から声をかける。
メタルは手元の資料を高速で整理しながら答えた。

「出るぞ。もう少しで終わるからそれまでに準備しておきなさい」

クラッシュの言語崩壊はうつるらしい。
先ほど味わった会話が成立しない感じをもう一度味わい、俺はそう思った。




「予定より大分遅くなったな。間に合えばいいが」

遠まわしに来るのが遅いと言ってくるメタルの片腕には鶏肉に卵にパン粉が入った籠がぶら下がっている。
さすがに歩く凶器といわれかねない肩部のブレードは外して上からすっぽりポンチョのようなマントのようなものをかぶっているが、額のブレードがそのままではいまいち意味がない気がする。が、黙っておいた。

「こっちはお前が俺を探していることもついさっき知ったんだ」
「クイックならすぐに伝えてくれるかと思っていたんだがな」
「あいつはメンテの仕方覚えねえとだめだ。毎回あんなふうに呼ばれてたんじゃこっちの身がもたねえ」

クイックは放っておくとほぼ間違いなくチャンキー暴走事件を誰にも報告しないだろうことがわかりきっていたので、道すがら俺が代わりに報告してやった。というかあの事件に関わったのは俺とチャンキーとショットマンぐらいだ。クイックは何もしていない。

報告したのはいいのだが、おかげでメタルが一体何の用事で俺をここまで連れてきたのか聞きそびれた。食材にこだわりも何もない俺を連れてきても夕食の材料調達には役に立たないだろう。

「ケチャップはまだ残っていたな」
「俺が知るか」
「よし。食材はこれで全部だ」

今日は何の日だろう。なぜ俺はこいつらに振り回されなきゃいけないんだ。
清算を済ませ、袋に買った食材を手際よく詰め込んでいくメタルを見ながらため息をついた。当然のごとく手伝わない俺に文句の一つもつけないのだから、ますます何のためにつれてこられたのかさっぱりわからない。メタルのことなどわかりたくもないが、こうやってよくわからん事態になるのなら話は別だ。

「じゃあ次だな。どこに行く?」
「はあ?」
「お前が言い出したんだろう。何かこだわりでもあるんじゃないのか」

だめだ。今日はあれだ、クラッシュの日だ。そうに違いない。
まったく意思疎通が図れない挙句、ここまで連れてきておいてさも俺がメタルを連れてきましたみたいな言われ方をされて、今すぐ基地にとって返して新しいウイルスをこいつの電脳にぶち込みたいのを懸命にこらえる。
こいつはクラッシュだこいつはクラッシュだこいつはクラッシュだ。よし。

「…そもそも、お前は俺に何の用があったんだ」
「前にパーツを買ったとき、今度から俺もつれていけ、と言っただろう。まあ食材の買出しはついでだが」
「つまり、今日はパーツを買いにきたわけか」
「そうだな」
「で、お前はそれを一度でも口に出したのか」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・」

黙った。
背後で「いらっしゃいませー」だの「ありがとうございましたー」だの言っているのが聞こえる。ついでに言うと先ほどから子供の泣き声がうるさい。
どう考えても戦闘用ロボット二機が無言で睨み合うには不釣合いな場所だ。どうでもいいが。

「…言ったぞ」
「クイックには言ったとか言いやがったら蹴り飛ばすからな」
「いや、エアーに」

思わず蹴り飛ばしかけるのを、悪目立ちするのはよくないと俺の冷静な部分が止める。
しかしそれでは俺の気が済まないので、通信を無理やりこじ開けて力の限りなじってやった。