「しかし、」

俺を引き連れて歩きながら、目の前の男性型ロボットは感慨深そうに呟いた。

「あなたをこうして案内することになるとは、世の中わからないものですねえ」
「まったくだ」

本当にまったくだった。
俺の右手はバスターでなく、通常の五本の指があるハンドパーツであり、この発電所の管理者であるロボットは、今案内役として俺に背中を見せて歩いている。少し前、少なくとも一ヶ月前には想像すらしない状況だった。

「かつては廃棄処分も覚悟しましたが、結局私は以前と同じ仕事に就き、散々世間を賑やかしたあなたたちも、監視つきとは言え変わらぬ生活を送っている。案外世界はロボットに優しいのかもしれませんよ」
「はっ、どうだかな」

言いながら視線を横にやる。通路の壁面は全てガラスでできていて、その向こうではパネルを忙しなく操作するロボットの姿があった。その全てが人型であるのは、ここが見学されることを想定しているからだろうか。
先ほどの案内役の説明によると、ここは発電所中の電気が集まるところであり、絶対に事故の無いよう、所のロボットが常に電圧、電流を一定の値に調節しているらしい。
それはつまり、ほんの少し誤差があれば、ここのロボットは全て事故に巻き込まれるということだ。
放射線の影響も考慮され、この発電所の周囲5kmに人間はいない。


視線を前に戻すと、大きな扉がすぐそこに見えた。先導していた案内ロボットは、その扉の二歩ほど前で立ち止まる。

「さて、残念ながらランデブーはここで終わりですね。この扉のずっと向こうに中央管理室がありますが、当然見学者の立ち入りは禁止です」
「そうか。それはよかった」

振り向いた案内ロボットがなにやら言った。非常に残念なことに気色の悪い前半部分はさっぱり聞こえなかったが。

「見学お疲れさまでした。何か質問はありますか?」
「一つだけあるな」
「おや、なんでしょう」
「この発電所は管理ロボットが案内に回るくらい人手が足りてないのか」

言うと案内ロボットは手を腰に当てて眉をひそめた。別に何でもない動作なのだが、何をしても不思議と一々勘に障るやつだ。

「まったく嫌味な方ですね。人に文句ばかりつけてて疲れませんか」
「悪いが文句をつけた覚えはない」
「…まあそういうことにしてあげます。質問の答えですが、人手は十分足りていますよ。ただ、あなたは大切なゲストですからね、責任者の私が直々に案内させていただきました。いわゆるVIP待遇というやつです」
「ほお、なんならチップを弾んでやろうか」
「結構です。万年貧乏なあなたたちからお金を貰うほど困っていませんよ」
「てめえは一々勘に障るやつだな」
「どういたしまして。他に質問は?」

限られた範囲しか入れない見学では、精々1、2時間しか経っていないはずだが、すでに半日はこのむかつく面と顔を合わせているような気がする。これだったらクラッシュの面倒を見ているほうがまだマシだ。

「ない。案内ご苦労だったな」
「心にもないことをどうもありがとうございます。でしたら私からも一つ、聞いてくださいますか」
「質問による」

そう答えると、何故か相手は一歩分距離を詰めてきた。常に3mは後ろを歩いていたのだが、今は互いに手を伸ばせば難なく触れられそうな距離だ。


「では、一つだけ。Dr.ワイリーの望む世界とは一体どのようなものでしょう」

くだらん質問なら一蹴してやろうとしていたのだが、思わぬ質問に眉を寄せた。

「それを知って何になる」
「さあ、それは答えていただかないとわかりませんね。少なくとも私の知的好奇心は満たされるでしょうけど」

まったく気にくわないやつだ。
なんと答えたものかと一度目を塞ぐ。沈黙が耳に馴染むより前に目を開くと、目の前のロボットは変わらぬ距離を保ったままこちらを見ていた。

「…その質問の答えはお前も知っているだろう、DWN.008」

今度はあちらが眉を寄せる番だった。趣味の悪い仮面の向こうで訝しげに顔が歪められたのがわかったが、それもすぐになくなる。

「ああ、そういえばそうでした。ふふっ、何ならエレキお兄さんと呼んでも構いませんよ」

何が楽しいのか笑いながらそう言われ、俺はDWN.009のブラコンっぷりを見たときのような不快感を味わったが、何を言うのもバカらしく思えて黙っておいた。