正しい夢 二日目

−明滅−





 机に突っ伏して寝ていたようだ。辺りには多数のケーブルが散らばっている。昨日はベッドに入って寝たはずだったが、と疑問に思う。思うと同時に思った自分に愕然とした。
 「昨日」はメタルがロックマンにやられた日だ。

 スタンバイ状態だったコンピュータを確認すると、解析はなんとか終わっている。解析結果がディスクにコピーされるのを待っている間に寝てしまったのか。自覚はなかったが案外疲労しているのかもしれない。


 おかしな夢を見た。

 昨日が昨日でない日だった。
 メタルは傷一つない状態でそこにいて、誰もロックマンのことなど口に出さない。フラッシュも多少の違和感を抱えながらいつも通りの日常を過ごし、一日の終わり、ベッドに入る頃には違和感も消え、そのまま明日が来ると思っていた。
 夢なのだからメタルがいるのはおかしくない。どちらかというと、夢の中にあって、それを現実だと信じる自分がおかしかった。

 ふとフラッシュは備え付けの時計を見る。
 AM5:30。普段より一時間ほど早く起きてしまった。

 普段ならもうメタルが起きている時間だった。今は、もういない。


―おやすみ、フラッシュ


 昨日のメタルの言葉が回路で再生された。
 違う、昨日の時点でもうメタルはいなかった。疲れているからメモリの整理ができていないのだ。
 体を起こして椅子の背に手をつき冷たいベッドを見る。今からベッドに入って寝直す気は起きなかった。

 朝の五時半。フラッシュは何かを探すようにして部屋を出た。





*





 フラッシュの私室からリビングまではそう遠くない。
 ただ、今のフラッシュにはリビングの見慣れた扉までの道のりがとても遠いものに感じた。震える手に気づかないふりをして、そっとノブに手をかける。

 そしてアイカメラが写した光景に、思わずフラッシュは笑った。


 ばかばかしい。いない者はもういないのだ。


 手探りでスイッチを探してリビングの電気をつける。一繋ぎとなっている台所には当然誰の姿もなかった。
 試しに冷蔵庫を開けてみると、結構な量の食材が残っている。

 フラッシュは自分が料理上手だと思ったことはないが、特段下手だと思ったこともない。腐りやすいものだけでも調理してしまうか。
 とりあえず卵を手にとった。






「めずらしいね」

 料理を始めてまもなく、リビングのドアの方から声がかかった。

「なんだよ」
「フラッシュが料理してるの、めずらしい。非効率的なのは嫌いじゃなかったの?」
「別に。腐らせるよりはマシだろ。バブルの方こそ、こんな時間に起きてくるなんていつぶりだ?」
「別に? いつもこれぐらいの時間に起きてるよ。部屋から出ないだけで」

 大して変わらねえだろ。内心だけで毒づいてといた卵をフライパンに流し込んだ。
 二人しかいない広いリビングに卵の焼ける音が広がる。


 後ろで椅子を引く音がした。多分バブルがいつもの席に座ったんだろう。
 黙ったまま薄く焼いた卵を片側へ丸めて次の卵を流し入れる。

「フラッシュはさあ」

 フラッシュは振り返らない。それでも気にせずバブルは言葉を続けた。

「フラッシュは、みんなのこと好き?」
「はあ? なんだよ、それ」
「博士とか、兄とか、弟のこと、好きなの?」
「どうだっていいだろ、そんなこと」
「どうだってよくない」

 やる気がなさそうな声なのはいつも通りなのに、バブルは時々有無を言わせない言い方をする。

「…嫌いだと思ったことはない」
「そっか」

 比較的早くに作られたため、バブルも感情の起伏は少ない。
 ただ、今は喜んでいるのは間違いないと思った。

「僕も好きだよ。フラッシュのこと」








 この時フラッシュはいぶかしんで振り返ったつもりだった。
 だけど、バブルのアイカメラを通して見ると、その顔はひどく悲しんでいるように見える。

 バブルは何を思ってあんなことを言ったのだろう。

 こうやってメモリを見ることができても、その思想まではわからない。
 回収したバブルのデータを解析にかけながら、フラッシュは決して解決できない疑問を抱いていた。はっきり言ってどうでもいいことだ。もうわかるはずがない上に、わかったって意味がない。
 ただ、知りたいと思った。知った方がいい気がした。


 昨日と同じように、自室でコンピュータの画面を見て過ごす夜。
 例え自覚がなくても、フラッシュは疲れていた。