正しい夢 三日目
−夢遊病−
目が覚めた途端、今までのことがすべて夢だったと理解した。
フラッシュはがばりと体を起こして辺りを見渡して、どうやら自分はデスクの上に突っ伏すように眠っていたらしいと判断した。古い紙媒体が散らばっていて、所々には色分けされたコードの類いもある。思い立ってうなじのソケットに手をやると、案の定コードが接続されたままで、コードの逆端はコンピュータに繋がっている。
昨日は作業中に寝てしまったのだろう。だとすれば確かめるまでもなく、あのコンピュータの中には、解析済みのバブルのメモリが保存されている。
点けっぱなしとなってしまったコンピュータを少し操作して、安全を確保してからコードを引き抜く。それから散らばった書類を整理してしまうと、もう部屋の中でできることはなかった。どうしたものかと時計を確認すると、ずいぶんと早い時間を指している。この時間ならクイックやメタルぐらいしか起きていないだろう。
椅子から立ち上がって身体中のジョイントを解していたフラッシュは、そこまで至った自分の思考に愕然とした。
今が何時であろうと関係なく、メタルが起きてくることなどもはやない。メタルマンは、ロックマンに倒されてもういないのだ。
自分の回路がひどく混乱しているのがわかったフラッシュは、もう一度椅子に座り直して、背凭れにぐっと体重を乗せた状態で深く息を吐いた。できることならこの手に持った紙切れも破り捨てて、コンピュータも破壊して何もかもめちゃくちゃにしてやりたい。そうして、何もなかったことにしてしまえるのなら、それが一番いい。
垂らしたままだった右腕を持ち上げ、バスターの側面でアイカメラのある辺りを押さえた。
あんな夢を見るからだ。
いつも通りの幸せで暖かく穏やかな、ほんの少し狂った、夢。
夢見ている時がどれほど幸せであっても、現実に帰ったときこんなに辛いのなら、見ない方がましだった。そもそも、今の緊迫した状況において、自身がこんな状態であっていいわけがない。いる者といない者の区別がつかないなんて、重症だ。
一度しっかりとメンテをおこなった方がいいのだろうか。
だけどメタルもバブルもいない今、フラッシュのメンテナンスができるのはワイリーしかいなかった。
こんな馬鹿馬鹿しいことに時間を取らせるわけにはいかない。大体今の自分が考えるべきことは、あり得ない夢のことなどではなく、後手に回らされている現状を打破する方法だ。
メタルの次に、バブル。ならば次は十中八九ヒートだろう。
何とかしなければならない。今、あの夢についてどうこう考える暇はないのだから。
回路の中でメモリを分類していく。メタルもバブルもいるいつも通りの光景は、しかし今はいつも通りじゃなくなってしまった。夢の中でもないと笑ってもくれない自分の兄たち。
「くそっ」
思考が堂々巡りをしているのに気づいて、フラッシュは悪態を吐いた。
電脳に組み込まれた時計で今の時刻を確認する。五時四七分。
あと一時間。あと一時間だけしたら、ヒートの元を訪ねよう。
そう自分に言い聞かせながら、フラッシュはバスターの下でそっと目を閉じた。