ドアを開けると、途中でゴンッと何かにぶつかる音がした。何の音か考えるまでもなく、ちょうどドアの向こうに誰かがいたのだろう。
少しだけ開けていたのをパタリと戻し、今度はゆっくり押してやると、何にもぶつからずにしっかりと開いた。
「クイック」
ドアの向こうにいたのはクラッシュだ。結構な勢いで開け放ったはずだが何事もなかったかのようにけろりとしてクイックの名を呼んだ。
「何だよ」
あまりに平然としているので謝る機会を失ったクイックは、ぶっきらぼうながらに返事を返す。一歩廊下に出て後ろ手でドアを閉めてから、ちらりと視線をドアにやると、ちょうどクラッシュのバイザーの先があるくらいの高さで大きく窪んでいた。見なかったことにする。
「言われた」
「はあ?」
「…メタルが」
「メタルがどうしたよ」
「おれがだ」
最後のセリフは首を横に振りながらの一言である。
思わず黙り込んだクイックを見てクラッシュは首をかしげたが、おそらくクイックの中を飛び交う疑問符のほうが多かった。
クイックとクラッシュは断じて仲が悪いわけではない。
任務で一緒になることも多く仲が悪くてはやっていけないというのもあるが、嫌いになるだけの要素がないと言った方が正しかった。
では仲がいいのかと言うとそうでもない。クラッシュがクイックのことをどう思っているのかはクイックの窺い知るところではなかったが、クイックはクラッシュに、よくわからないやつという判断をしていた。
「あー、俺、やることあるから。もういいだろ?」
今までクラッシュとまともな会話を成立させた記憶がないクイックは、このやりとりに早々に見切りをつけた。背後の窪み付きのドアを誰かに見咎められる前にさっさと立ち去ってしまおうと足を進める。クイックの言葉を聞いたクラッシュはどう思ったのか、ひとまず数歩下がって道を開けた。
やっぱりよくわからん。
元の認識をさらに強固なものにしつつ、横を通りすぎる。
ガッシガッシガッシ
「……」
付いてきている。確認しなくてもわかった。機体重量が飛び抜けて大きいクラッシュが歩くと大体こんな音がする。
「次がクイックだ」
「なんだよ、ついてくる気か」
「違う。ラボだ」
「だからわかんねえって!」
立ち止まって振り返ると後ろを歩いてきていたクラッシュも立ち止まった。ちょうどバイザーが照明の光を反射しているせいで顔がわからない。
クイックがお手上げ宣言をしてから数秒、横たわっていた沈黙を打ち破った音にクイックはぎょっとした。
「おい、待て、落ち着け! 俺何もしてねえだろ!?」
「次はクイックだ」
「何の次だよ!」
こいつは両腕のドリルをギュインギュイン回したやつがワケわかんないことを言いながら迫ってくるのがどれだけの恐怖かわかっていない。
最後まで会話が成立しないままラボまで連れてこられたクイックは、メンテナンス用の工具を広げたメタルが「ああ、クイック。遅かったな。クラッシュはわざわざありがとう。もう帰っていいぞ」と言った辺りでようやく事態を把握した。