DWN.010、エアーマン。
フラッシュマンの4つ前にDr.ワイリーによって作られたロボットだ。自分に厳しく他人にも厳しく、ヒートマンとウッドマンには少し甘い、そんなロボットである。
メタルマンの考えを拝借すれば、フラッシュマンには兄というものが五体いることになる。その五体の内、フラッシュマンがわかりやすい尊敬の念を抱いている相手がエアーマンであった。ちなみにそんなフラッシュマンは自分に厳しく他人にも厳しく、ヒートマンとウッドマンと、口では何だかんだ言うがクラッシュマンとバブルマンに甘いロボットである。
エアーマンとフラッシュマンは仕事の担当も生活区域も機体の形状も異なり、共通点と言えば青いことくらいしか思い付かない二体だったが、互いが互いに寄せる信頼は確かなものであった。仕事の担当分野が離れていることも、二体の協力体制に太い軸を一本据えることとなった。基地周辺の見回りをエアーマンが、基地の管理をフラッシュマンが請け負う、といった案配だ。
さて、長い前置きとなったが、つまりは、エアーマンとフラッシュマンは、普段の接点こそあまり無いが、実際の繋がりは強固なものである、ということだ。ちなみに、「別居してるのに仲のいい夫婦みたい」と言ったのはバブルマンである。
別居してるのに仲のいい夫婦のような二体のロボットは、しばしばエアーマンの管理する飛行挺群で顔を合わせた。初めは、部屋に篭りがちなフラッシュマンの気分転換としての意味合いが強かったのだが、今やすっかり習慣化している。フラッシュマンの趣味が写真撮影で、好きな被写体が空であることも、二体の会合の理由になった。
これもその習慣の一つ、カメラを携えたフラッシュマンが、エアーマンのもとを訪ねた日の話である。
*
「飽きないのか」
夕日がその姿を隠していっている。
フラッシュマンは、エアーマンの言葉が自分への問いかけだと理解していたが、少しの間聞こえない振りをした。力強い朱色の光が、薄く頼りない雲を通る内に幾分和らいでフラッシュマン達の元まで訪れる。それでもなおフラッシュマンは目を細めた。
眩しい。
「エアーはさあ、飽きてるのか」
「なんだ、急に」
それはこっちの台詞だ。
言いたくなったのを堪えて、代わりに喉の奥でクツクツと笑う。
エアーマンがこちらに近づいてくるのを感じて、フラッシュマンはエアーマンを制するように立ち上がった。それから伸びをしつつ振り返ると、不可解です、と言わんばかりの顰めっ面が目に入って思わずフラッシュは噴き出した。
「何なんだ、一体」
「ああ、いや、そう、エアーはやっぱり飽きるのかな、と思っただけだ」
「笑う必要はないだろう」
その通りだ。
しかしエアーマンのその台詞すらおかしく感じられて、フラッシュマンは思わずにやけそうになる口許を手で抑えようとした。今一効果がないことは、エアーマンの呆れた視線を見れば明らかだったが。
何かしらのツボに入ってしまったフラッシュマンを一先ず放っておくことに決めたエアーマンは、フラッシュマンの背後に展開される大パノラマに目を移した。
フラッシュマンは時折ふらりとエアーマンの飛行挺に訪れ、何をするでもなく始終空を眺めて帰っていく。エアーマンにはその行為の意味が理解できなかった。フラッシュマンが特に空を好むことはわかっているが、空にそれほどの魅力を見いだせなかったのだ。
エアーマンにとって、空というのは風景の一部であり、それ以上でも以下でもない。飽きる飽きない以前の問題であった。
「…考えたこともなかったな」
「飽きる飽きない以前の問題だって?」
そんなはずはないのだが、エアーマンは考えでも読まれたかとどきりとした。
「ああ。空は空だろう」
「じゃあ飽きてねえじゃねえか」
「……」
沈黙したエアーマンを見て、フラッシュマンはまた笑った。
フラッシュマンの機嫌がいいのは、彼が一日空の鑑賞を楽しんだからだろうか。
「空を空として受け入れてるってことは、飽きてねえだろ?」
「…少し無理がないか」
「そうか? でも事実だろう」
何だかよくわからなくなってきたエアーマンは再び沈黙を選んだ。
四つも下のナンバーズとなると、プログラムはかなり高度なものとなっている。こういう風に、フラッシュマンがエアーマンの理解できないことを言い出すのも初めてではなかった。
フラッシュマンもこれ以上話を膨らませる気はないのだろう。再度体を反転させると、半分ほど隠れた夕日に目を細めた。
「このまま西に夕日を追いかけて飛んだら、沈まない太陽なんてものも見れるなあ」
「…やらないぞ」
エアーマンの言葉に返ってきたのはまたもや笑い声だけだった。