「好きだ」
そう言うとコイツは決まって、怒ったような困ったような顔をする。それが少し寂しい。
「そういうことは『好き』という感情を正しく理解してから言いやがれ」
「理解しているさ。オレはお前を特別に思っている。何を奪われてもお前を盗られるのが一番嫌だ」
「お前のそれは執着って言うんだよ。俺が持つお前には無いものを珍しがってるだけだ」
「違う、オレが仮にお前みたいな電脳を持っていても、仮に時間が止められたとしても、お前のことを一番に思うのに違いはない」
「はっ」
フラッシュは一度わざとらしく鼻で笑って、ゆっくりと足を組み替えてから続けた。
「じゃあな、クイックマンさんご自慢の速さと引き換えに俺の事を好きにできるって言われたら、どうするつもりだ」
「そんな状態あり得ないだろ」
「例え話だぜえ? オニーサン」
「例えにしたって成り立たない。オレが速いのと、お前とは全然別の次元にいるんだ」
「お前のさっき言った言葉に則ると、俺はお前にとって何よりも勝るものであるはずなんだがなあ?」
「だから、全然別の話なんだって!」
反論するオレをまた鼻で笑った。
こういうところは本当にムカつく。
「な? お前の中での俺の存在ってのは別に大したもんじゃねえんだよ」
「何が『な?』だよ! 全然わかってねえ癖に偉そうにしやがって」
「わかってねえのはてめえの方だよ、ばーか」
「っ馬鹿にするなって言ってんだろ! 人の事ばっかり言いやがって、お前は『好き』ってのがどんなのかわかってんだろうなあ!?」
そうがなる自分をどこか冷静に哀れんでいる自分がいるのを感じた。
わかっている。オレが知っているのにコイツが知らないなんてことは一つもない。
「どうやったらオレは、お前の『好き』になれるんだ…!」
視界に入るのがフラッシュの膝から下だけなのに気づいてようやく、自分が俯いていたと知る。
そっと視線を上げると、フラッシュはちょうど片手で額から目元を覆ったところだった。もちろん表情は窺えない。だけど口の動きから、何か話し出そうとしていることはわかる。
「お前は、」
きっとコイツはまたオレを馬鹿にする。
オレだって、自分の電脳がフラッシュに劣ることぐらい理解しているのだ。
「何もわかってない」
「馬鹿にすんなよ、オレにだって!」
「わかってないよ」
ひどく落ち着いた声に反論しようと開いた口を思わず閉じて、そのまま強くギリリと音がするまで噛み締めた。
わかっている。オレが知っていることでフラッシュが知らないものは一つもない。
だからこんなに胸が苦しいのだ。