「新しいナンバーズを作るって?」
 バブルはメタルと違って任務外の仕事にあまり積極的ではない。博士と顔を合わせるのも日に二、三回しかない上に博士の研究の進み具合を話題にすることも滅多にないので、時々メタルに博士の研究の進み具合を聞いて、ふうんそうなんだ、と合わせるのが常だった。無関心だなと文句を言われても、正直言ってバブルが手伝えることはほとんどないのだから、バブルの手を必要とする時と、研究が形になった時だけ教えてくれればいい。
 と、まあそう思っているのも事実だったが、別にバブルとて博士の取り組みに興味がないわけではなく、特に能力が高く、人間で言う個性というのに近い個体差をプログラムの段階で与えられている、いわゆるナンバーズの製作には、一定以上の関心を抱いていた。
「ああ。喜べ、お前にとっては初めての弟だ」
「またそれ? 言っとくけどぼくはメタルのこと兄だなんて思ってないからね」
「寂しいことを言うな」
「ロボットに兄弟という関係を当てはめようとするメタルが変なんでしょ」
「確かに『血縁』という言葉とは無縁の俺たちにとって兄弟は存在しない。だが存在しないのなら新しく定義付ければいいだろう。同じ製作者が一定の共通性を念頭において作り出した機体同士は…」
「はいはい。それで、次のナンバーズはどんな子なの? ナンバーは13かな」
 何かの資料を片手に喋っていたメタルは、発言中に割り込まれたことは特になんとも思っていない様子で、一度資料に目を落としてバブルの質問に答える。
「ナンバーズも間違いではないが、弟と呼んだ方が正しい。それに、13じゃなく12だ」
「12? 今育ててる子が12になるんじゃあなかったっけ」
「いや、違う。博士のご意向は分からんが、おそらく機体を持って、初めてナンバーが得られるということだろう」
「ふうん。なるほどね」
 メタルの『弟』論を軽やかにスルーして、傍から聞くと気のない返事を返したバブルは、ふと思い当たることがあって小さく声をあげた。
「あ、そういえば」
「どうした」
「この前博士が言ってたよ。あの子、僕たちに憧れてるんだってさ」
「憧れ? どういう意味だ」
「どうもこうも、そのまんまの意味。ナンバーを持っている、っていうのが羨ましいらしいよ」
 メタルは淀みない言葉のキャッチボールを一度留めて、その間に展開していた映像資料を終了させた。
「…面白いやつだな」
「うん。面白いよね。博士も面白がってるから、簡単にはナンバーをあげないつもりなんじゃない?」
「おあずけ、ということか? 自分が飛ばされて12番が決まったと知ったら悔しがるだろうな」
「だろうねえ。博士も大概人が悪いから」
「まったくだ」
 珍しく博士の悪評ともとれるセリフを黙認するどころか同意までしたメタルは、暗転した映像資料を小脇に抱えなおした。バブルも会話の終わりを感じ取って、プールサイドから凪いだ水面へと滑るように潜り込む。
「まあ、そういうことだ。構想はできているらしいから、完成までそうかからないだろう」
「よかったね」
 メタルはまたボールを返すのに少し間を開けた。
「ああ、喜ばしいことだ。エアーにも報告してくるが、今のうちに何か頼みたいことはあるか」
「なんにも。働きすぎないように気を付けてね」
「わかった。伝えておこう」
 エアーへの伝言じゃなくてメタルへの忠告なんだけどなあ、と思ったがバブルは口を閉ざした。どうせ言っても聞きやしないし、伝言を受けたエアーが自分の代わりに心配という名のお説教をしてくれるだろう。
 じゃあ、と言って退室するメタルに手だけ軽く振って、人知れず安堵の息をつく。

 メタルは表情が感情に追随しないために、一見何を考えているかわからないように見えるが、考えることが非常に単純なので行動だけで大体何を思っているのかがわかる。今回のやり取りの場合、ずいぶんとはしゃいでいるな、というのがバブルが感じたことだ。おそらく間違いはないだろう。
 『弟』の電脳を自分が奪った形になったのを気にしているようだったが、この調子なら問題無さそうだ。
 メタルの姿が消えていった扉を見ながらそう思った。これは推測と言うより、バブルの願望に近かった。