「なんで来たんだ」

開口一番、不満げにそう言ってやると、相手も不満そうに口を尖らせた。

「近くをちょうど通りがかったから」

ここは彼の受け持つ塔から遠く離れた死の大地

思わず状況を忘れて笑った
が、腹が痛んだのですぐやめた。

「通信機、使えなくなったのか?」
「いいや」

『使えるよ』と、続きは通信で返した。
作業に打ちこんでいたクイックの眉間のシワが二本から三本に増えた。

「だったらなんで何の連絡もよこさなかったんだよ! そしたらもっと、少なくともこんな…」
「連絡、ねえ…。そうだな、連絡はするべきだった」

そこがフラッシュ自身不思議に思う所だった。

相手のことを見くびっていたか
自身の力を過信したか
他の連中を巻き込むまいとしたのか
はたまた誰の力も借りないというプライドの表れか
あの時の自分が何を考えていたのか、なぜかさっぱりわからない。

「フラッシュ?」

目を塞いで思案に耽っていたからか、少し抑えたような、普段のクイックには似合いそうもないほど静かな声で呼びかけられた。

「なんだ」
「なんだ、じゃねえよ。俺が真面目にやってる横で寝やがったら許さねえからな」
「はいはい。だったら急げよ」
「くそっ、腹立つやつだな」

軽口を叩くけれどもその眼差しは真剣だ。
今もこの瓦礫の山をどう攻略したものか頭を回転させながら、目を付けたものに手をかけては取り除いている。
しかし馬力で言えば仲間内で下から数えた方が早いクイックだ。全身の力を使えればもう少しすんなり作業は進むのだろうが、崩壊の可能性を考えるとそう力をかけるわけにもいかないのだろう。
フラッシュもフラッシュなりに努力しようとした時期もあったのだが、さっぱり動かない体に早々に諦めモードに入っていた。馬力で言えば下から数えた方が早いクイックの更に下にいる上に、体を横たえたままとあってはできることなんてたかが知れている。
例えば真剣なクイックの様子を目で追ったり


この暗闇の中でもどこからか光を集めて輝くクリスタルの欠片を、見向きもせずに背後に放り投げたクイックは、そのまま次の瓦礫に手をかけようとして動きを止めた。
しばらくウロウロと色んな角度から瓦礫の山を見て、少しの間悩んだ末に、比較的大きくて長い、元は柱としてこの地下に伸びる建築物を支えていた、今となってはただの瓦礫に手をやって、慎重に引っ張り出す。
しかし半分ほど行った所で、ガラガラと不愉快な音を立てて山の一角が崩れた。
腹部への圧迫が更に強くなって顔を顰める。と、慌てて手を止めたらしいクイックと目があった。

クイックは何か言おうとしたようだが、結局一度口を閉じて、おそらく最初に言おうとしたのとは違うことを言った。

「晴れるらしい」

話題に困ったら天気の話を持ち出すというのは万国共通のテンプレートだ。

「いつの話だ」
「…明々後日とか」
「とかってなんだよ」
「うるさいな、覚えてないんだ」

言い捨てたクイックは、半分引き抜いた元柱を一旦諦めて、他のもう少し小さな、これも光を返すクリスタルの欠片に狙いを移した。しかしその小さな欠片を、注意深く引き抜いているにも関わらず、頭上からはパラパラと言う擬音を使うには少し大きすぎる破片が降り注いでくる。

「最近雨続きだったんだから、嬉しいだろ、晴れるの」

そんな単純なのはお前だけだよ、とはさすがに言わないでやった。

「…そうだな。晴れたらやろうと思っていたことが随分溜まってる」
「メタルが晴れたら大洗濯だってぼやいてたぜ」
「それは勘弁だ」

笑い混じりにそう返すと、「俺もだ。晴れたらどっか遠出しようかな」と呟いた。
こいつの遠出は、俺たちにとっては大旅行の域だ。

「お前の好きな所連れてってやるからさ、それまでには修理してもらっとけよ」

そう言われて初めて、「明々後日」というのが咄嗟に出た中途半端なものではなく、きちんと考えられたものなのだと気付いた。
この損傷で仮に今日博士のもとへ運ばれたとして、自由に動き回れるようになるには最低でも三日は必要だろう。


だけど嘘はいけない
明々後日の降水確率は90%だ。