美しい夜だ。
隣を往く彼が足を止めるくらい美しい夜だ。
「ほら、」と言われて見上げた眼が眩んでしまうくらい美しい夜だ。
ずっと先の終わりのときに閉じた瞼の裏で瞬きが蘇るくらい美しい夜、になるはずだが、この時の僕らはまだ知らない。
僕らはまだ知らない。
それにしてもなんとも、美しい夜である。
美しい夜の話
ぱしん
音がした。
驚いて前を見ると手を振りきった妹が唇を戦慄かせてこちらを睨み付けているのでさらに驚いた。
このままではきっと泣く。
そう思って開いた口を、何も吐き出さないままに閉じた。
妹の怒りは正当なものであり、自分の考えも(少なくとも彼にとっては)正当なものであり、妹を泣かすまいとする兄としての心も正当なものである以上、吐くべき言葉など見つからない。
「……」
「……」
しかし困ったことに妹も何も言わない。
どうしたものかと黙り込む。慰めの言葉は正しくない、謝罪はしたくない、反論するつもりもない。つまるところ、やっぱり黙っているしかない。
そうしていると、妹は観念したかのように呟いた。
「ロックは勝手よ」
「…ごめん」
謝罪がぽろりと出てしまった。
内心慌てるが、溢した水はコップに戻せない。
これはあれだ、自分が妹たちに迷惑をかけていることに対する謝罪であって、決して彼らへの裏切りではない。ないったらない。
「私たちの心配も知らないで、敵だったやつらにほいほい着いてって、罠だったらどうするの」
「彼らは僕によくしてくれるよ」
「だから、それが罠かもしれないって言ってるのよ!」
「罠だったら、どうするの? 僕が彼らのこと信じてるって、相手に思わせてる内に、カットたちと協力して倒したりするの?」
綱引きで急に手を放されたら後ろへすっころぶように、討論の途中急な譲歩を見せられた相手は動揺する。
こちらの例え話に妹は面食らったように見えたが、すぐに気をとりなおした。
「そうね、できることなら、それがいいと思うけど…」
「罠じゃなかったらどうするの?」
「…え?」
「彼らが、彼らの願いも、その体自身も僕にボロボロに踏みにじられて、大事な創り手もいなくなって、戦う力のない体に入れられて帰ってきて、憎い敵であるはずの僕と、戦う力を持っている僕と、それでも仲良くなろうとしてくれてるのだとしたら、どうするの?」
「それは…、でも…」
妹は途端自信なさげに視線を下げる。さっき勢いよく僕の頬をひっぱたいたはずの右手も、今は胸元で左手を頼りなさそうにぎゅっとしている。
「僕は、臆病なんだ」
「まさか」
「本当だよ。向けられる好意を疑えない」
僕には力もあるから大丈夫だと思っている。
とは言えないでいた。
ほら、やっぱり臆病だ
「ロールちゃんも、実際に会ってみたら、わかるよ」
今だって思い出せる。
彼らの笑い声
からかったときの怒鳴り声
仲がいいからこそできるケンカ
と、言ったとき決まって返ってくる否定
「わかりあえるはずだ、」
「同じロボットなんだから」