「クイックさんよ」
「なんだ」
「重てえんだが」
「そうか」

おおよそこういう返事が返ってくると想像していた。しかし何も言わないよりはましだろうと口にしただけの不満だったので、それ以上は繰り返さずに口を閉じた。
クイックが一体何をどう思って勝手に人の部屋に忍び込んで勝手に人の寝床に入りこんで勝手に人の腕を枕にしようと思い立ったのかはさっぱりわからないが、わからないことに慣れていたフラッシュは「どうして」と問うのを止めていた。
慣れているから、というのは正しくないかもしれない。理由を尋ねて最後に辿りつくクイックからの答えが、フラッシュにとって有り難くないものであるだけの話だ。つまり、何が言いたいかと言うと、クイックは「好きだ」を伝えるのに戸惑わないロボットであった。

こっ恥ずかしいやつだ、と兄のことを評価しながら、ふと、自分はこいつのことをどう考えているんだろうと思った。好き、でないこともないだろうけど、そう言いきるのも何か違う。腹を立てることも本気で殴り飛ばしてやりたいと思って実行に移すことも多々あれど、嫌いというわけでもない。いなくなって困るかと聞かれると、そりゃあもちろん戦力的な意味で困るが、それを抜きにして考えるとなると、これがさっぱりわからないのだ。
わからない。
フラッシュにとってのクイックは、わからないことに満ちている。



「なあ」
「なんだ」

クイックはこちらに背を向けている。クイックが頭を預ける腕から、返事とともに小さな振動が伝わってくるのが少しおもしろい。

「俺ってお前のことどう思ってんだろうな」
「・・・うん?」

妙な質問をしている自覚はあったので、変な声とともにクイックがこちらを振り返ったのも無理はない。無理はないんだが、こちらを向かれると案外近くて驚いた。

「俺ことフラッシュマンはお前ことクイックマンのことを一体どういう風に思っているかな」
「言い直せって意味じゃねえよ」
「それぐらいわかって言ってんだよばーか」

語尾に間の抜けた悪口をつけてやると、人の私室に不法侵入し、人の腕を無断拝借している分際にも関わらず、軽い膝蹴りが返ってきたので、お返しに足裏をクイックの腹に押しつけてグイグイと外へ押し出す。

「やめろやめろ落ちる落ちる」
「落ちろ」

グイグイグイグイ

「あー、あれだ、俺はお前のことが好きだ」

グイ

「そうかい」
「だからお前も、俺のこと好きなんじゃねえかな」
「・・・・・・・・・」

グイグイグイグイグイグイグイグイ

「落ちる落ちる」
「落ちろ」

まったくこれだから馬鹿は困る。




クイックからはろくでもない答えしか返ってこなかったが、きっとそれでいいのだ。
落とされまいと反撃に出てきたクイックをいなしながらそう思った。
わからないならわからないで、それでいい。相手に当たるクイックが気にしていないのだから、フラッシュも気にしないようにしたら、それで誰も困らない。



共にいて楽しいと思えるのなら十分だ。

そう思った。