目の前の障壁を思いきり蹴りつけた。閉まる前ならともかく、こうなってしまえばフラッシュにはどうしようもない。

「おいクラッシュ!」

通信を介して呼び掛けるものの返事がない。妨害を食らっているのか?
ひとまず誰か適当なやつと通信を繋ごうとしたが、それより、メタルから通信を受ける方が早かった。

「こちらメタルだ。今ちょうどクラッシュと同じフロアにいる」
「おいおい、あいつまた暴走してるんじゃないだろうな」
「残念ながら暴走してるな。とにかくここで暴れられちゃ全員水没しかねん」

あいつ後でしめる。
もう一度目の前の壁を蹴りつけるが当然びくともしない。さて、どうしたもんか。
そう思っていると通信を聞いていたらしいバブルが文句を言ってきた。

「えー。やだからね、みんな回収してまわるの」
「そう言うな。エアーがこちらに向かってはいるが、それまでは私が何とかする」
「頼むぜ、兄さん。この深さに放り出されちゃあバブルが回収する前に水圧で潰れる」

だいたい海底に研究所を作ろうとすること自体理解できない。建築も維持も大変だし、緊急の際の脱出もままならないのではないか。
まあ、現在の自分達の状況を省みるに、侵入者対策としてはいいのかもしれない。

最後に拾った「兄さんに任せなさい」と言う頼もしすぎる一言を無視してフラッシュは眉を寄せた。


予定が狂った。
障壁が閉まらなければこのままクイックと合流して施設のマザーコンピュータからデータを奪って撤収する流れだったのだが…。
クラッシュを待っている時間はない。迂回するしかないのだが、フラッシュ単体でも突破できるルートと言うとかなり限られる。

障壁が下りたと言うことは、マザーもフラッシュたちの侵入に気づいている。ここまできて、回収する予定のデータをデリートされるわけにはいかない。

クイックの現在位置を確認する。
仕方がないか。フラッシュは思わずため息をついて、ついた自分に眉をしかめた。こんなときでも自分の人間臭さはとれないらしい。

「クイック、聞こえてるな」
「ああ」
「今お前の目の前にあるのが目標のマザーコンピュータだ。異変に気づいてデータを削除しようとしている」
「ちょっとフラッシュ!」

またバブルからの通信。こいつもたいがい心配症だ。
何を言いたいのか大体想像はついたが一応聞き返す。

「…なんだ、バブル」
「わかってるだろうけど、クイックに電脳戦の経験はない。いくらなんでもいきなりマザー相手じゃ荷が勝ちすぎる。ここはフラッシュかメタルがいったほうがいい」
「できるもんならな。今は時間がない。こうやってる間にも尻尾を切られるぞ」
「クイックのデータをやられる可能性の方が高い。無茶が過ぎるんじゃないかな」
「何もデータ奪取をしろといってるわけじゃないさ。デリートを食い止めててくれりゃあいい」
「それが無茶なんだって。メタル、なんとか言ってやってよ」

まだクラッシュは暴れているのだろうか。一瞬の沈黙があった。

「クイックに任せろ。この作戦の指揮はフラッシュに一任してある」
「…本気で言ってる?」
「私が作戦中嘘を言うと思うか?」
「だよねえ。フラッシュ」
「聞こえてる」
「邪魔してごめん。指示に従うよ」
「そりゃどうも」
「おい、オレはどうすればいいんだ」

やはりこいつはバカだ。話の流れで大体わかるだろうが。
海底に作られた施設の薄暗い通路を疾走する。バカはバカなりに言ったことはちゃんとこなしたようで、敵もほとんど残っていない。
馬鹿と鋏は使いようってやつか。

「マザーに接続してデリートを食い止めろ」

クイックは何も返さなかった。
何も返さないことこそがあいつの心情をよく表していて、つい笑ってしまった。いつも無駄に自信満々なくせに、自分の不得意分野ぐらいは把握できているらしい。

「心配しなくてもお前の少ないデータの回収ぐらいすぐに終わる。振り返らず、前だけ見てろ」
「了解」

さて、あのバカはマザー相手にどれだけ食い下がれるのか。
クイックのデータを回収するなんてめんどうなことをせずに済むよう、フラッシュは走るスピードをあげた。